「音楽ライター養成講座」とは、東京・池袋の西武百貨店系列のカルチャー・スクール<コミュニティ・カレッジ>で、小野島が講師をつとめるセミナーである。開設は96年、プロのライターや音楽誌編集者も何人か輩出している。2週間に1回・90分の講義で、一期わずか半年という短い期間のわりには、それなりに実績をあげてきたと思う。
講座は基本的に、受講生の方に実際に作品を書いてもらい、それを全員で読んで感想や意見を交わしあう、というゼミナール形式で進めている。講師の話を一方的に聞くだけでなく、実際に作品を書き、いろいろな人に読んでもらうことで、文章を書き、人に自分の考えや感じたことを伝える面白さを知ってもらおう、というわけである。
「養成講座」というと、いかにも安直なノウハウものや、型にはまったセオリーばかり押しつけるものを想像される向きもあろうが、「こうすればライターになれますよ」式のことこまかな処世術や巷の「論文の書き方」ふうの指導をしているつもりは一切ない。評論のやり方や姿勢もその人ごとに異なって当たり前だから、一定の流儀を押しつけることも絶対ない。また細かい文章技術の習得なら、もっと適切な講座もあるはずだ。だからこの「音楽ライター養成講座」では、モノの見方や考え方、自分が音楽を聴いて感じたことをいかに適切に言語化していくか、いかに効果的に、説得力をもって読み手に伝えていくか、ということを受講生とともに考えていく、というやり方をとっている。つまり、ただ講師の話を受動的に聞くだけでなく、受講生のみなさんが自分から情報を発し、また参加していくことで、より多くのものが得られるはずなのだ。
受講生の方は年齢・性別・職業すべてバラバラで、一定の傾向はない。当然ながら音楽の好みも多様で、受講生は特定の音楽ジャンルやアーティストについての知識を求められることはないし、講師もそんなことを教えるつもりは一切ない。またライター小野島のことをよく知らずに参加する人もいるから、そういう方面での知識も必要ない。
経験的に断言していいが、日本語がふつうに読み書きできて、音楽が好きで、かつ「音楽ライター養成講座」に通おうというぐらいの意欲のある方なら、巷のプロを自称する音楽ライターぐらいの文章は必ず書けるようになる。もちろん個人差はあるし、実際にプロになれるかどうかは文章技術だけで決まるものではない。受講生全員がプロ志望というわけではないし、また就職斡旋所ではないから、半年間の受講がプロになれることを保証するものでもないが、プロであろうがそうでなかろうが、いい音楽を聴いて心を揺さぶられ、その素晴らしさを文章にしてみんなに伝えたい、という気持ちは同じだ。大切なのはそういう情熱を常に持ち続けることなのだ。そうした情熱の発表の場は、ミニコミ、あるいは自らのウエブ・サイトなどという形で、プロでなくても持つことは可能なのである。
なお講座のサブ・テキストとして上記単行本『音楽ライター養成講座』を使用するので、できれば事前に通読し、受講期間中もおりに触れ読み返してもらえれば、参考になるはずである。→購入ページへ(
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