2002年3月2日(土)

 赤坂の東芝EMIでライズ・フロム・ザ・デッドの取材。応じてくれたのはNAOTO、MITCHUNGの二人。きわめて温厚なお人柄で、ラクに話ができた。彼らは関西在住だが、完全なニュー・ウエイヴ世代で、ライヴ・ハウスに行くより先にニュー・ウエイヴ・ディスコに通っていたクチらしい。東京にもクライマックスって店がありましてね、そこでDAFとか初めて聴いて衝撃を受けたんですよ、としばし昔話で盛り上がる。新作『2 mouth 4 eyes』(3月27日発売)は『メタル・ボックス』のころのPILみたいですね、と言うと喜んでくれた。

 東芝のロビーで『DIG』編集部の辻口君(新婚・阪神ファン)と待ち合わせて、今度シンコーミュージックから出るセックス・ピストルズ本掲載のLPジャケット(偶然にもPILの『メタル・ボックス』の缶)を貸すつもりだったが、約束を忘れていたらしく見事すっぽかされる(笑)。仕方なく取材終了後、神田のシンコーミュージックまで届けるはめになる。

 土曜日だというのに辻口君、『DIG』編集長の森田さんが出勤していて、あれこれ雑談。森田さんはぼくと同世代だが、中年オヤジふたりの会話は中原昌也顔負けの愚痴とボヤキのオンパレードに終始する。不景気でどうしようもないという、まぁ言ってみれば業界人が集まると必ず出るお決まりの話に始まり、はては年寄り特有の不健康・持病自慢まで延々と展開される(苦笑)。
 
 洋楽ロック・ジャーナリズムの現在のやり方がすでに破綻しつつあるという話も出た。現在洋楽系音楽誌の多くが、主要な原稿のほとんど(あるいはすべて)を外注せず編集員自らが書く、という態勢になっていること(つまりそれだけ雑誌が閉鎖的になり、広がりがなくなって記事が画一化していく。自分の書く原稿のクオリティをチェックできる客観性が編集者には必要だが、それが感じられない)。またネット時代だというのにそれに対応した態勢がまったくないこと。そして現状の音楽専門誌が批判的なことを書けなくなっている(いろんな意味で)こと。まぁ1番目なんかはフリー・ライターのやっかみだろう、と言われそうだが(笑)、とくに問題なのは3番目で、ライター自身の自主規制とか、編集部側の自粛とか(大きな記事はもちろん、レビューなどでも批判的なことを書きそうなライターは外される、あるいは批判的なことを書くと「もっと前向きに」と指導が入る、など)、いろいろ要因がある。もちろん本当にすべてが大傑作なら問題ないんだけど、もちろんそうじゃないのはみんなよく知ってるだろう。むかしは雑誌で激賛されてるレコードを買って楽しめなかったりすると「オレの聴き方が悪いのかも」とか思ったりしたが(ナイーヴだったなー)、ネット時代では本音の感想が各BBSなどにすぐアップされるし、そうした評判はネットを通じてあっという間に伝わる。誰もが意見を手軽に発表できるから、つまらないと思うのは自分だけじゃなくたくさんいるんだ、と気づくのだ。そこで「この雑誌、こんなつまんないものまで絶賛ばかりで信用できない」となる。つまりマスメディアによる一方的な情報操作がしにくくなっている。そういうことは同時多発テロ事件ではっきりしたはずだ。新聞やテレビではアメリカ側からの一方的な情報や意見ばかりを垂れ流していたが、ネットのBBSなどを見れば反対の意見を持つ人も多数いることがわかるし、マスメディアでは流れない情報や高度な議論が交わされていたりして、大本営発表では伝えられない真実もたくさんあるんだ、とみんなが気づき始めたのである。そういう流れに一番鈍感で、その結果自らの信頼性や権威をおとしめてしまっているのが現在の雑誌音楽ジャーナリズム、というわけだ(もちろん低年齢層向けのファン雑誌が主の邦楽誌の場合は、本質的には洋楽誌と同じでも、読者の求める情報の種類がちがうから、少し事情は異なってくる)。

 要するに各レコード店で配ってるフリーペーパーと、有料で売ってる音楽専門誌のちがいがまったくなくなっている……というのはずいぶん前から言われてることだが、それが音楽誌の権威や信頼性の急落を示すことは明白で、実際に各誌の実売部数激減(森田さんの話では、かなり深刻らしい)という形で証明されつつあるのである。もちろん部数減の主たる原因は洋楽レコードの売り上げ不振と主に関係してるんだろうが、それだけじゃないと思う。このまま事態が進行したら、洋楽系ロック雑誌は『DIG』や『レコードコレクターズ』のような振り返り系か、機材・楽器関係の専門誌か、『クッキー・シーン』や『アフターアワーズ』みたいなミニコミしか残らない、ということも満更ありえないことではないのだ。いやほんと、ちょっとまずいよね。

 ……というようなことをダラダラと2時間。3,4月の2ヶ月でムック/雑誌/単行本あわせて15冊出すという修羅場の最中に、すっかりお邪魔をしてしまった。すまんです。ちなみに辻口君すっぽかしの貸しは缶コーヒー一本でチャラに。