2001年2月10日(土)

 ここのところゆっくり本を読む余裕もない状況が続いていたが、この3連休は差し迫った仕事もないので、久々に読書三昧の予定。この日読んでもっとも感銘を受けたのが白石一文『不自由な心』(角川書店)。この作家についてはまったく知らず、『本の雑誌』3月号で北上次郎(目黒孝二)が推薦していたので手にとってみたのだが、個人的にはここ数年のベストと思えるぐらい感銘を受けた。

 短編集だが、どの話も重い。主人公はみな人生に行き詰まった中年男たち。バブル崩壊後の構造不況のなかで仕事に行き詰まり、プライベートに行き詰まり、家庭に行き詰まり、恋愛にも行き詰まり人生の目的を見失ったおっさんたちがジタバタともがき苦しむ。どこにも自分の居場所が見つけられず、この先起こるはずもないビッグバンを期待するほど若くもなく、といって不安を捨て諦めきれるほど年老いてもいない、そんな男たちが主人公だ。北上次郎はこう書いている。「ストーリー的にはさまざまな企業に勤めるさまざまなサラリーマンが主人公で、誰一人として私ではないが、しかしここにいるのはまぎれもなく私なのである。だから胸が騒ぐのである」。まさにその通りであって、どの話もどの主人公も、それはぼく自身であり、痛くて痛くて仕方なかった。ぼくと同年代の男なら、共感できる人も多いのではないだろうか。収録作の「卵の夢」は、特に泣けた。ただし主人公たちのなかにはかなり身勝手な男の論理を振り回す者もいて、特に女性は反発するかもしれない。だがそれも含めて、彼らは確実に、あなたのそばにいるおっさんたちのある真実を体現している。

 著者は福岡出身、1958年生まれというだけで詳しいプロフィールはわからない。企業や会社の内部事情や経済状況の描写のリアルさなどから、おそらくどこかの会社のサラリーマン作家と思われる。第一作の『一瞬の光』も今度読んでみるつもりだ。