2000年7月30日(土)

 はやいもので、今日はもう東京に帰る日である。寝たのは(おそらく)午前5時過ぎぐらい、朝9時の電話で叩き起こされ、シャワーをあび、荷造りして、朝食を食べ、ホテルをチェック・アウトして荷物をクルマに運ぶ。それだけでなんだかぐったりしてしまう。

 会場は今日もいい天気。とりあえずテントで昼寝してから、ホワイト・ステージへフィラ・ブラジリアを見に行く。ところがこれが何の変哲もない、ただのヘタクソなフュージョンで、死ぬほどがっかり。中座してフィールド・オブ・ヘヴンへストロボを見にいくが、すでに終わったあと。仕方なくレッド・マーキーまでとって返して、ブラッドサースティ・ブッチャーズを見る。いつもながらのエモーショナルなプレイだったが、このころから二日酔いと朝食の食べ過ぎ(苦笑)で気分が悪くなり、あまり楽しめなかったのは残念だった。

 そのあとまたフィールド・オブ・ヘヴンに戻り、ソフト。レコードと較べかなり技巧的な感じのライヴだった。もう少しシンプルな演奏にすれば、もっと突き抜けたパワーが出てくるかも。このレッド・マーキー←→フィールド・オブ・ヘヴンの往復は結構応えた。すでにヘバリ気味となったカラダにむち打ち、ホワイト・ステージでブンブン・サテライツ。ぼくはこのバンドをすごく買っているのだが、この日は結構欠点も目に付いた。なんだか考えすぎというか、頭でっかちな感じで、いまひとつ演奏に没入できず、冷めてしまうのだ。ひどくクールというか無機質な感じで、なんだか人間の体温を感じない。クロスビートの美馬さんなどは「そこがいいんじゃないですかぁ」と言うのだけど、クラフトワークなんかと違って、彼らは明らかにある種の精神性みたいなものをあらわそうとしているわけで、この無機質さはそれとは相反するものだと思うのだ。まぁ、今彼らはレコーディングの真っ最中でめちゃくちゃ煮詰まっているということなので、それがたまたま演奏に出てしまったのかもしれないが、ひとつには、ヴォーカル/ギターの川島の存在感が薄すぎるということもあると思う。パフォーマーとしての川島をうまく活かすことで、ステージ・パフォーマンスも変わってくるような気がするのだが。

 そのあと、またまたフィールド・オブ・ヘヴンでエイドリアン・シャーウッド。もちろんミニストリーのようなノイズ攻勢であるはずもなく、のんびりしたレゲエ/ダブ。緊張感は欠如していたが、まぁ気持ちよく聴けた。そしてまたまたホワイト・ステージに移動してモウビー。正直言って全然期待していなかったが、予想外に良くて嬉しい誤算だった。すごく多彩な才能を持った人で、エンタテイナーとしても一流。すごく楽しめた。会場の後ろでは電気グルーヴのふたりが楽しそうに見ていたけど、人だかりがしてきたので早々に立ち去ってしまった。ああいうとこでサイン求めたり握手求めたりするのはほどほどにしとこうね。アーティストだって楽しんでいるんだから。

 そこで会ったソニーの弘石さんによれば、数々のリリースで日本のテクノを支えてきたソニーはテクノ部門からほぼ全面撤退、ワープ、R&S、リフレックスなどは契約切れ、ケン・イシイやブンブン・サテライツなどは邦楽部門のいちアーティストとしてやっていくという。音楽業界不況の波はついに業界トップのソニーにまで及んできたわけで、ソニーのような大メジャーがテクノみたいなインディペンデント・ミュージックに積極的に関与してきたのはすごく意味のあることだったはずだけど、結局背に腹は代えられなかったわけだ。別掲の電気グルーヴのインタビューにもある通り「もはやテクノ終わった」という声が、たとえばテクノ・ジャーナリズム内部からも起こってくるような現況では致し方なかったのかもしれないが、とにかく残念、というしかない。

 いい加減疲れてきたカラダを引きずりながらフィールド・オブ・ヘヴンへ、AOA。ROVOとはすこし違う意味で、すごく快楽性の高いサウンド。足が筋肉痛気味で、あまり我を忘れて踊れなかったのが残念だった。終了後、またもホワイト・ステージへ。ちょうどステレオラブが終わるところ。今年の来日公演を見て、ライヴでどうのという人たちじゃないと思ったので今回はパスしたのだが、評判は良かったみたいだ。ぼくのお目当てはレフトフィールド、続く電気グルーヴ。だがどちらもやや期待はずれ。レフトフィールドはいかにも煮え切らない出来。ズブズブのレゲエ/ダブにいくのか、イケイケのダンス・アクトにいくのか、どっちにも徹しきれず非常に中途半端に思えた。まぁこっちのカラダも疲労困憊気味だったことも手伝ってはいると思うのだけど。

 いよいよトリの電気グルーヴ。イントロの瞬間はめちゃ盛り上がったのだが、その後は案に相違して、いまいち楽しめない。既存の楽曲をばらばらにしてカットアップ・コラージュしたり、中期電気の代表的なテクノ・アンセム「虹」を、石野が歌わず変調させたテープ・ヴォイスで代用するなど、従来の電気的なものを解体して新しい段階に行こうとする意図は明確だったけれども、どうも考え過ぎというか策に溺れた感じは否めなかった。瀧の存在感を活かしきっていないのも原因のひとつではないかと思うのだが、おそらくここでの演奏は新しい電気グルーヴ構築のための過渡期的段階で、おそらく次のWIRE00では、もうすこしちがう姿が見られるものと思う。

 これでぼくのフジロック00は終わった。すでにカラダは疲労の限界に達している。とぼとぼとグリーン・ステージに向かう道を歩いていると、ようやく終わったという安心感と、言いしれぬ寂しさが募ってくる。ぼくのようなすれっからしの業界人でさえそう思うんだから、ふつうのロック・ファンにとって、月曜からの「日常」に再び戻ることは、耐え切れぬ苦痛であるにちがいない。グリーン・ステージではソウル・フラワー・ユニオンの大熱演が続いている。

 そのまま帰宅するのはちょっと抵抗があり、オアシス売場でうだうだしながら、クロスビート美馬さんや播磨さんとしばし雑談。冷牟田竜之やチバユウスケのDJを聞きながら、後ろ髪を引かれる思いで、会場をあとにする。深夜の高速をひた走り、午前3時半ごろ帰宅。静まり返った居間でビールを飲みながら、しばし呆然とする。まったく、夢のような三日間だった。

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