2000年5月30日(火)

 オーディオ評論家の長岡鉄男氏が亡くなった。
 昨年氏自らの責任編集で『観音力』というムック本を出しているのだが、そのなかに、この書の企画を見せられて「なんだ、これは。早々と追悼特集号を出す気か」と冗談交じりに返したことが記されているのだが、それが冗談ではなくなってしまった。
 「オーディオ/ヴィジュアル」のコーナーでも書いたが、ぼくがオーディオに興味を持つようになったきっかけが長岡さんで、同時にもっとも影響を受けた評論家でもあった。資本や権力に媚びない態度、他のオーディオ評論家が見向きもしないようなローコストの製品もきっちり評価する姿勢などももちろんだが、ぼくにとっては明快でロジカル、かつ独特の機知とユーモアを感じさせる語り口がまず魅力的で、その歯切れのいい断定口調の文章は痛快そのものだった。掲示板でBBさんも書かれていたけれども、ほかの人が書けばただの極論・暴論ともとられないようなことも、長岡さんが書くときわめて面白くかつ説得力があった。そういう点では中村とうようさんとも共通点があったかもしれない。長岡さんとあらゆる意味で対照的な存在として、「オーディオ界のカーグラフィック誌」とも言われている『ステレオサウンド』誌の主筆である菅野沖彦という評論家がいるが、カリスマ性、影響力という点ではまるで長岡さんにはかなわないだろう。また彼は無類の「ヘンなもの好き」で、異端音楽の紹介者でもあった。
 スピーカー自作派の教祖としても知られていた人だが、不器用なぼくは一度試みて挫折して以来、やったことがない。彼の自宅隣にある「方舟」という48畳もあるリスニング・ルームでは、彼の自作のスピーカーが連日連夜大音量で鳴らされていたらしい。ぜひ一度聴いてみたかった。
 なんでも長岡さんは三島由紀夫や吉本隆明と同じ歳の生まれだったらしい。大正15年生まれだから、うちの父の4歳下だ。享年74歳だが、まだまだ健筆ぶりを見せてもらいたかった。たぶん長岡さんのような人は、2度と出てこないだろう。単にオーディオのジャンルだけにとどまらないスケールを持った人だった。心よりご冥福をお祈りしています。
 それにしても方舟はこれからどうなるんだろうか。主のないまま朽ち果てさせるのはあまりにもったいない。『長岡鉄男記念館』のような形で有料公開してみてはどうか。
 
 来週末に海外出張が決まるが、パスポートが期限切れだったので都庁地下の旅券課に赴き手続きをする。10年有効のもので、総額2万円弱。それから、ふと気が向いて、同庁内で献血に協力。400ミリも血を抜かれて、これで少しは穏やかな性格になるでしょう。