2000年5月29日(月)

 日本武道館でベック。世評ほど彼を買っていないぼくが言うことだから割り引いて読んで欲しいのだが、やはりこの人はライヴ向きではないと思った。レコードで聴けるもの以上は感じ取ることができなかったし、外タレには珍しいあれこれ盛りだくさんなステージ・セットの趣向や仕掛けも、あまり効果的とは思えなかった。とくに前半は苦痛だった。
 最初の来日時に比べればはるかにマシにはなっていたものの、ステージ・パフォーマーとしてのベックはやはり二流でしかない。コンサート前半部は歌・演奏・ステージ・アクションまでもろにプリンスなパフォーマンスを見せるのだが、あらゆる点でプリンスの足元にも及ばない。だって、マジすぎるんだもん。その割に全然かっこ良くないのだ。いや、かっこわるいこと自体が悪いんじゃない。プリンスはもともとかっこわるい小男だったのが必死に努力してかっこよくなった。その過剰な思いこそがパワーになった。岡村靖幸のように精一杯かっこつけようとしてかっこつかないって例もあるが、だからこそ彼のパフォーマンスはリアルだった。でもベックには岡村ちゃんのような必死さがないし、それがゆえの滑稽さもない。といって(初期のブルースやフォーク、オルタナ・ロックに対するときのような)クールで冷静な批評的スタンスも見えない。たぶん本人はパロディのつもりでやっているのだろう。でも、パロディならある意味で本人よりはるかに巧みにその芸をなぞり、その本質をとらまえながら微妙に外していく批評的センスが求められるわけで、ベックのパロディは本家のなぞりにもならないヘタクソさだし、批評というには対象に密着しすぎていて、全然笑えないのだ。空中からつり下げられたベッドの上でもだえてみせるパフォーマンスも、意図はわかるがストレート過ぎて面白くない。本人はとても楽しそうだったし、別に不快な気もしなかったが、プリンスからマドンナから岡村ちゃんまでやっている使い古された余興を、あえてベックがやるからには、彼らのコンセプトをそっくり反転してしまうほどの鋭い視点が欲しかった。
 アンコールの、まるで80年代のテント系小劇団やチューブスのライヴみたいな意図不明のパフォーマンスと、生ギターで弾き語るフォーク/カントリー的な演奏には、ベックらしい個性がうかがえた。
 でも、おそらく世間的には大絶賛だろうな。2,3聞いた知人の意見も、みなベタ褒めだったもん。ベックけなすのはマズイって風潮もあるしさ。どうでもいいけど。