2000年5月15日(月)

kobayashi 小林信彦『おかしな男 渥美清』(新潮社刊)読了。いわゆる伝記ではなく、若き日の渥美清とつき合いのあった著者が、自ら見聞した事実だけをもとに、小林なりの稀代の喜劇俳優・渥美清=田所康雄像を描き出している。取材は一切せず、すべて文献と著者の当時からのメモや日記、記憶にもとづいて描かれているが、その細密をきわめた記憶力と詳細なメモからあぶり出されるひとりの喜劇人像は驚くほど生々しい。著者のかっての名著『日本の喜劇人』(新潮文庫)でおなじみのエピソードも次々と出てくる。小林は横山やすしでも同工の著書をものしているが、どこか突き放している感のある横山やすし篇より、本書の方が渥美の来歴と小林自身の来歴が重なり合って、よりリアルだ。福田和也の『作家の値うち』(飛鳥新社刊)によれば、「おそらく一世紀後には、小林信彦は戦後日本を代表する作家とみなされ」る、ということだが、正直言って小説家としての小林はさほど面白いとは思わない。だがこうした喜劇人ものに関しては、余人の追随をまったく許さぬ、この人にしか書けないものになっているという点で、まさに唯一無二だと思う。感情におぼれないドライで、かつ的確な文章表現はさすがです。推薦。

 ドラマ『永遠の仔』、いよいよ佳境に入ってきた。「原作に忠実にやる」という制作者の言葉通り、かなりこみ入っていて長大な原作をよくドラマ化していると思う。キャスティングもまぁまぁ的確。とくに椎名桔平と渡部篤郎、石田ゆり子、古尾谷雅人、塩見三省あたりは原作のイメージによく合っている。中谷美紀の雰囲気は少女時代の重いトラウマを押さえ込んで生きている女、というキャラはよく表現しているが、いかんせん圧倒的に美しく若々しいので「29歳の化粧っ気のないオンナ」という原作の設定からは程遠い感じ。最大のミスキャストは中谷の少女時代を演じる子役の少女で、あまりに健康的すぎる(特に背中まであるロング・ヘアなのはおかしい。原作では<肌が見えるぐらいの短髪>という設定で、それが話の核心に関係しているのだから)。中谷の母親役の永島暎子は非常に達者な女優さんだが(川島透監督『竜二』なんてほんと良かった)、陰のあるワケありの女にはまる方で、原作の「末っ子のお嬢さん」という華やかさがあまりない。ちなみに古尾谷雅人と永島暎子はかって田中登監督の『女教師』という映画で共演していて、そのときの脚本は、『永遠の仔』と同じ中島丈博である。
 このドラマ、スマスマの裏というハンデにもめげず初回17%超という高視聴率をあげたそうだが、5回目にははやくも10%を切ってしまったらしい。やはり暗く、こみ入った話のわかりにくさが敬遠されたんだろう。これから、どうやってテレビ化するのか懸念される場面が頻出するし、苦戦が予想される。といって原作の長大さから映画化は無理だろうし。制作者のお手並み拝見だ。