5日(土)

 行きつけの獣医で、犬の手術があった。できれば手術は避けたかったが、このまま内科的処置を施すだけでは病状が回復しないと医師に忠告され、決断した。1月30日の日記に書いた「プライベートな心配事」とはこのことです。

 先月の17日の深夜(18日の早朝)に突然足を引きずるようになり、やがてほとんど寝そべったまま動かなくなってしまう。医師の診断は股関節異常で、炎症を止める薬を処方してもらった。薬を飲み始めて3〜4日目ぐらいで足の方は少し良くなったのだが、その代わり今度はエサを残すようになり、食べてもすぐ戻してしまう。2〜3日するとエサにまったく口をつけなくなってしまった。食い意地が張っていて、食欲だけはいついかなるときも旺盛だった犬で、それが健康のバロメーターだっただけに事態は深刻である。点滴を打ってもらったり注射をしてもらったが、効果はない。目に見えて体力が落ちていき、大儀そうに寝そべったまま動かない。4日ほど前から入院させ検査をしていたのだが、どうも原因がつかめない。胃の機能が極端に低下しており、血中蛋白質が低くなっている。胃炎か、先天性の疾患か、あるいは悪性の潰瘍でもできているのか。詳しく様子を見るために内視鏡を呑むか開腹手術をするかという決断だったのだが、胃以外も悪くなっている可能性もあり、どうせ麻酔するなら開腹して、患部はその場で処置を施した方がよいという医師のすすめだった。手術前にケージに入れられた犬に対面するが、もう体力もなく苦しいだろうに尻尾を振って喜んでいる。はやくこの狭いところから出してくれよと言わんばかりに鼻を鳴らしている様子を見て、何もわからないまま腹を開けられ辛い手術をしなければならない犬が不憫でならなかった。そのあと一旦帰宅したのだが、麻酔をするまでずっと鳴き通しだったらしい。ふだんは滅多に吠えない犬なのに。

 手術は午後1時半に始まり、3時間半にも及んだ。結論から言うと、ストッキングだか靴下だかを食べてしまい(しかもふたつも)、それが胃と腸の両方に詰まり、その影響で腸に穴があいて腸の一部が壊死して、腹膜炎を起こしかけていたらしい。ストッキングを詰まらせたなんて落語みたいな話だが、特にこの犬種(ラブラドール・レトリバー)では多いようだ。壊死した部分の腸を切除し、繋ぎあわせ、穴から漏れた体液や汚水を洗浄して、開腹した腹を閉じるまで3時間半。その間ガラス越しに見ていたのだが、もちろん麻酔をしているから意識はないにしろ、目の前で家族同様の飼い犬が腹を開けられグリグリといじられるのを見るのは辛いものである。

 10分ほどして麻酔から覚めた犬に対面。さすがに全身麻酔のあとだけあって、まだ意識が朦朧としていて、起きあがることもできずフラフラしている。なんといっても手術のあとだからメチャクチャ痛いんじゃないかと思うのだが、実のところ犬はあまりそういう痛みは感じない(というか、痛みに強い)のだそうだ。そこらへんは野生動物の、敵に弱みを見せまいとする本能かもしれない。こっちを見て鼻面を寄せてくるが、どうもぼんやりとしていて、家族だと認識しているか怪しいものである。とりあえず3時間半頑張ったねぎらいの言葉をかけて、獣医院をあとにした。手術そのものは成功したので、あとは腸に穴が開いたことによる感染症の心配だけである。「あとはこの子の体力次第ですね」と医師は言う。この2〜3日がヤマだろう。それまでは落ち着かない日が続きそうである。