11日(火)

 ベイNKホールでナイン・インチ・ネイルズ。開演時間ギリギリに飛び込んだら、なんだかガラーンとしている。一瞬会場を間違えたかと思うが、そんなはずはない。すると会場時間を間違えたか。思わず時計を見るが、間違いなく19時である。
 全然客が入ってない。ガラガラ、である。アリーナは前の半分しか客が入っていない。2階席はあっちにポツリ、こっちにポツリ……全部で2千人も入ってないんじゃないか。これはサムい。こんなにガラガラのコンサートはスマッシング・パンプキンズの初来日以来かもしれない。売れてないという噂は聞いてたが、これほどとは……だいたい平日にこんな都心から離れた交通不便な場所でコンサートをやること自体が大きな間違いだが、そもそもNKホール3日間というスケジュールが無理だったのだろう。ギャラの関係からそういうスケジュールを組まざるをえなかったのか、それとも単にプロモーターのメガネ違いなのか知らないが、やはり来日が遅すぎたということか。せめて『ダウンワード・スパイラル』のときに来ていれば、と思う。5年半も待たされて、もう彼らの音楽は<旬>ではなくなってしまったのだ。NIN流のオブセッシヴなインダストリアル・ノイズは今風でないということなんだろう。じゃあナニが今風なのかって、よくわかんないけどさ。ケッ。

 そんなウスラ寒い状況でぼんやり開演を待っていると、どんどん気持ちが沈んでくる。ここ数年間、一番ライヴが見たいアーティストとして真っ先にNINの名を挙げていたぼくなのに。昨日見ておけば良かったと少し後悔する。ぼくの知る限り、10日(初日)のライヴはかなり好評だったようである。観客もカッコがつく程度には入っていたはずだ。少しでも多くの人たちとこの時を迎えたかった。 
 40分ほど遅れて突然開演するも、気持ちは落ちたまま。ガラーンとした会場にレズナーの歌声がむなしく鳴り響く。
 もしぼくがアーティストだったら、こんなガラガラの会場を見たらやっぱり気持ちが萎えてしまうと思う。もしトレント・レズナーがどんな状況でも手を抜いたりしない誠実で真面目な人間だったとしても、この状態でテンションを保つのはむずかしいはずだ。

 ところが、だ。演奏は萎えるどころかどんどんヴォルテージがあがってくる。ヘヴィなインダストリアル・ノイズが中心で、サウンドは一見一本調子な感じで変化に乏しいように思えるが、ヴォーカルが陰影に富み表情豊かで、歌メロもちゃんとしているので、ぐいぐいとその音楽世界に引きずりこまれていく。アーティストのテンションも高く、とにかく気迫で押しまくってくる。細かいヴィジュアル演出や照明の凝り方もさることながら、演奏とヴォーカル、ノイズとメロディがうまくバランスしたサウンド作りのセンスも特筆できるだろう。コンサートが進むうち、サウンドにも細やかな陰影と起伏が配され、ただ力任せのインダストリアル・メタルだけでないことが明らかになってくる。サウンド・スタイルは全然違うが、やはりレズナーと比肩しうるアーティストはプリンスということになるだろう。ただプリンスの場合、<芸能>としての大衆娯楽性、コミュニティの共通の岩盤みたいなものがその表現を支えているのに対して、レズナーは突出した一個人の才覚と狂気が規定する西欧古典芸術的なあり方を踏襲している。

 気がつけば会場のウスラ寒さも忘れ、NINの公開自虐ショウに我を忘れてのめり込んでいた次第。でもせめて赤坂ブリッツぐらいの規模の会場であれを見たらもっともっと興奮しただろうなという気がする。帰り道、Tシャツでも買おうかと思っていたが、グッズ売場には人ッ子ひとりなく、閑古鳥が鳴いていたので、なんとなく買いそびれてしまった。