7日(火)

 浜松町のスタジオで、イエロー・モンキーの取材。媒体は「ワッツイン」。半年前にライヴ盤のリリースで取材して以来だが、今回のシングルは朝本浩文、笹路正徳らを共同プロデュースに迎えての1作で、リズムやアレンジなどに新境地を打ち出したものになっている(外部プロデューサーを迎えたのは初めてだそうだ)。わりとダウナーな方向を打ち出したもので、なぜそのような曲を書くに至ったかという話をするうち、「俺は不安なんですよ、バンドの将来がとかじゃなく、ひとりの人間として」というようなことを吉井和哉が言い出した。それはどういうことかと問い直すと、「ま、いいじゃないですか、どうでもいいですよ、そんなこと」と言う。「えっ、すごく重要なことじゃないですか」と返すと「いやいや、情報誌なんだから……」と逃げられてしまった。これにはちょっと考えさせられた。つまり堅い音楽評論誌ならまだしも、「ワッツイン」のような情報誌で、そんな深い話をしても仕方ない、ということらしい。

 確かに記事の文章量は多くはないし、アーティストの深層に食い込むような歯ごたえのある記事よりも、気軽な情報を求めるような人が主に手に取る雑誌ではあるかもしれない。だが優れたインタヴューをやろうと思ったら、それは一対一の人間同士の会話になる。アーティストとインタヴュアーという立場を超えた対話になる、と、ぼくはそう信じてこれまで仕事をやってきた。たとえどんな雑誌の取材であっても、アーティストの真実を、深層を引き出すのがぼくの仕事だと思っている。そして、どんなファンであろうが、どんな雑誌の読者であろうが、アーティストの真実を、本音を知りたいという気持ちは同じだと考える。ミュージックマガジンでやろうがスタジオボイスでやろうがUVでやろうがワッツインでやろうが、そのスタンスは崩さずやってきたつもりだ(もちろん文章にしたときの語り口は変わるにしても)。そして、そういうぼくの姿勢が多少なりとも理解されているから、仕事も来ているはずとうぬぼれてもいた。こういう雑誌なんだから、この程度の話でいいだろう」なんて思うのはアーティストに対しても編集者に対しても読者に対しても失礼じゃないだろうか。たとえば石野卓球は「最初はその雑誌の読者に対して答えているつもりなんだけど、いつしか小野島さん個人に話している気になるんだよね」というようなことを言っている。ぼくがこれまで取材させてもらって、いい話をしてくれたアーティストたちは、そんな気持ちでインタヴューに応じてくれたものと思っていた。

 それだけに、吉井和哉の発言には、極端にいえばインタヴュワーとしての自分のあり方を根本から問い直されるような思いがしたものだ。それは吉井が、いろいろな雑誌をよく読んでいて、それぞれの雑誌の性格をきちんと把握したうえで、それに応じた発言をコントロールできるという聡明さがあり、またそういう計算ができるということの証明でもあるだろう。そういう冷静なバランス感覚がミュージシャンとしての吉井の優れたところのひとつだとは思う。だがぼくとしては、ワッツイン向けの話ではないと思っても、やはり答えて欲しかったのだ、それが彼の真実に関わることであるなら。まぁ単にぼくの未熟で、彼の口を開かせるまでに至らなかったということなのかもしれないが、にしても、彼にとってはぼく個人ではなくワッツイン相手にプロモーション・トークを喋っていただけなのかなと思うと、ちょっとがっかりさせられた。

 念のため言っておくが、ぼくは吉井に対して非難めいた気持ちは微塵もないし、悪感情もまったくない。ただ、彼はぼくが書いたコーンのライナーを読んでくれていて、インタヴューの前「良かったですよ」と声をかけてくれたのだ。つまりぼくがどんなライターなのかある程度理解してくれてると思っていただけに、余計ぼくは彼の発言を重くとってしまったのかもしれない。まぁ2回しか会ったことないのに、そこまで求めるのは無茶かもしれないが。

 はたしてライターはアーティストの代弁者にしかすぎないのか? アーティストのプロモーション・トークを引き出すためのただの職人にすぎないのか? ライター/インタヴュワーの個性とは? 

 なんか、すごく甘ったれたことを書いてしまったかな。雑誌の種類、読者層に応じて共通言語も異なるし、求めるものも異なる。それに応じて臨機応変に対処しろとライター講座で口をすっぱくして言っているのは、ほかならぬぼくである。それができるのがプロであり、そういう意味ではぼくは本当のプロとは言えないのかもしれない。でも「情報誌だから、アーティストの楽しいプロモーション・トークを引き出せればok」とは、ぼくはどうしても考えられないのだ。

 ところで、この半年お楽しみいただいた渡部淳さんの連載だが、ご本人からの申し出があり、ひとまず終了させていただくことになった。本業である音楽誌編集の仕事が多忙をきわめ、なかなか更新ができないということが理由のひとつである。当方としては休載扱いということで、余裕ができたときにまた書いていただければ、とも思ったが、きちんとけじめをつけたいというご本人の意志もあり(まじめな男なのだ)、ひとまずここで連載は終了である。残念だが仕方ない。また復活してくれることを祈りつつ、今後は本業でのさらなるご活躍を祈りたい。って、どうせ仕事でしょっちゅう顔を合わせるんですがね。